ジャケットの縫い目(シーム)は単なる「布のつなぎ目」ではありません。
シルエットの完成度、体へのフィット感、耐久性、さらにはスタイルの印象まで左右する非常に重要な要素です。
特にテーラードジャケットは立体構造で成り立っているため、どの縫い目がどんな役割を持っているのかを理解すると、ジャケット選びの精度が大きく向上します。
ここでは、ジャケットを構成する主要な縫い目の仕組みや特徴、品質を見極めるポイントまで、専門的な視点から丁寧に解説します。
サイドシーム(脇線)— シルエットの軸を作る縫い目
ジャケットの左右をつなぐ縫い目で、着用時のシルエットを支える重要なラインです。
ただし、ウエストラインをつくるのはサイドシーム単体ではなく、フロントダーツやパネルラインと組み合わせて構成されるため、縫い目全体の設計バランスがシルエットを左右します。
- ウエストが引き締まったライン
- ボックス型のゆったりしたライン
いずれもサイドシームとダーツの配置が大きく関与しています。
ここが美しいジャケットは、横から見た時のフォルムが自然で立体的になります。
ショルダーシーム(肩線)— ジャケットの“骨格”を決める要所
前身頃と後身頃をつなぐ縫い目で、肩の位置・ラインを決める最重要ポイントです。
肩線が美しく設計されているかどうかで、着用時のバランスが大きく変わります。
- 均一なピッチ(針目)は品質の高さの証
- 体型に合わせて前方向へわずかに傾ける「フォワードショルダー」設計もある
- 肩線の位置が正しいと、袖の落ち方も自然になる
ジャケットの“第一印象”は肩で決まると言われるほど重要な縫い目です。
アームホール(袖ぐり)シーム
ジャケットの最も複雑な縫製部分がアームホールです。
ここが丁寧に縫われているほど、腕を動かしたときにジャケット本体が引っ張られにくく、着心地が格段に向上します。
高品質ジャケットの特徴は以下の通り。
- 袖ぐり(アームホール)が小さめに設定される
→ 可動域が大きくなる - いせ込み(袖山に対して身頃のゆとりを織り込む技術)が丁寧
→ 腕の自然な動きをサポート - 立体的な袖付けでシワが出にくい
アームホールは“動きやすさ”と“美しいシルエット”を両立させる要です。
センターバックシーム(背中心)— 背中のフィットを整える縫い目
背中を二枚の生地で構成した際に中央に走る縫い目です。
一枚仕立てより調整の自由度が高く、フィット感を微調整しやすいのが特徴。
- 背中の丸みに合わせた立体カーブを形成
- 補正がしやすい(太さ・姿勢に合わせて調整可能)
- 高級ジャケットほど滑らかなカーブラインを描く
シンプルな縫い目ですが、後ろ姿の美しさに直結します。
ダーツ(立体成形の縫い目)— 体に沿うシルエットをつくる設計技術
ダーツとは生地をつまんで立体感を作る技術。
ジャケットでは特に「フロントダーツ」が胸の丸みやウエストラインを作る要になります。
- 胸の立体感を自然に形成
- ウエストの絞りを作り、メリハリのあるラインに
- バックダーツはアイテムにより有無が異なる
ダーツがきれいに縫われているほど、前から見たときのシルエットがシャープかつ立体的になります。
ラペル周り(ロールライン)— 見えない縫製の技術がロールを作る
ラペルが自然に返る「ロールライン」には、内部に毛芯が入り、そこに細かな手縫いステッチ(ハ刺し)が施されます。
この“見えない縫い”が、ラペルの立ち上がりや美しいロールを生み出します。
- 自然なラペルの返りは高品質の証
- 毛芯と表地を留めるハ刺しがロールを支える
- ステッチの密度や方向でラペルの表情が変わる
高級スーツほど、この部分の縫製に時間と技術が注ぎ込まれています。
トップステッチ(飾りステッチ)— デザインと補強の役割を持つ“見せる縫い”
表側に見えるステッチで、
- 装飾
- 補強
- デザインアクセント
などの役割を担います。
- ドレスジャケット:ステッチを控えめにして上品に
- カジュアルジャケット:太いステッチで力強さを演出
- AMFステッチ(ピックステッチ)は高級感を出す代表的技法
ステッチ幅が均一でまっすぐに入っているジャケットは、縫製レベルが高いと判断できます。
ジャケットの縫い目から品質を見極めるポイント
① 縫い目のピッチが細かく均一か
テーラードジャケットでは細かいピッチほど丁寧な縫製。
② 波打ちやツレがないか
明らかな歪みは品質低下のサイン。
③ アームホールのいせ込みが自然か
袖付けが美しいと、動きやすさが格段に変わる。
④ ラペルの返りが自然か
内部の縫いが正確でないと不自然に浮いたり沈んだりする。
⑤ サイドシーム〜ダーツのラインが滑らかか
前・横・後ろ姿すべてに影響します。
ジャケットのタイプ別に見る縫い目の特徴
アンコンジャケット
- 芯地・肩パッド・裏地を減らした軽量構造
- 縫い目そのものより“構造の簡略化”が特徴
- カジュアルでリラックスした雰囲気
ワークジャケット
- 太番手糸のステッチ
- 装飾性より“耐久性”優先の縫い構造
- 無骨でラフな印象
ドレスジャケット
- 目立たないステッチで洗練された印象
- 見えない部分の縫製が重要(肩・ラペル・アームホール)
縫い目そのものが、スタイルの方向性を象徴するデザイン要素でもあります。
まとめ:縫い目を知るとジャケット選びの精度が劇的に上がる
ジャケットの縫い目は“構造”そのものであり、美しく仕立てられた縫い目は、
- シルエットの美しさ
- 着心地の良さ
- 長持ち度
- 全体の雰囲気
- 体型補正の効き方
すべてに直結します。
縫い目を理解すると、ジャケットの見え方が大きく変わり、実物を手にしたときに“どこを見るべきか”が明確になります。
以上、ジャケットの縫い目についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
