ジャケットの襟は、洋裁の中でも最も「技術差が出る」難易度の高いパーツです。
襟の返り(ロール)や角度、綺麗なシルエットは、ミリ単位の精度・適切な芯地・緻密なクセ取り(アイロンワーク)によって生まれます。
ここでは、
- 襟の構造理解
- 縫製に入る前の下準備
- 上襟・下襟の縫い合わせ
- 襟とラペルの縫製接合
- クセ取り(立体成形)
- ロールライン形成
- 仕上げ工程
という流れで、テーラードジャケットの襟縫製を“正確な知識”のもとで詳しく解説していきます。
襟の構造を正しく理解する
ジャケットの襟は複数のパーツで立体的に構成されています。
この構造理解が正しい縫い方の土台になります。
上襟(アッパーカラー)
- 表側から見える襟。
- 多くのテーラードジャケットでは「タテ地(ストレート)」で裁つのが一般的。
- 一部ブランドや仕様では、ロールを出しやすくするために「やや地の目を振る」ケースもある。
下襟(アンダーカラー)
- 首に直接触れる裏側の襟。
- フェルト(カラークロス)で作ることが多い。
- 上襟より 2〜3mm小さく仕立てるため、襟の自然なロールが生まれる。
ラペル(下前・上前の折り返し部分)
- 胸元に折り返されるパーツ。
- ロールライン(ブレイクライン)によって立体が決まる最重要部分。
見返し(前身頃裏のパーツ)
- ラペル裏側のパーツ。
- 表地と接合して襟全体の「裏面の形」を作る。
縫う前に必ず行う《下準備》が仕上がりを決める
襟は「縫う前の準備」の質で仕上がりの8割以上が決まります。
特に以下の工程は欠かせません。
ロールライン(折り返し位置)のマーキング
ラペル〜襟にかけて「どこで折れるか」を明確に線で示す。
このラインが曲がると、襟の印象が崩れる。
芯地の設定
仕様によって違うが、一般的には以下2パターン。
接着芯を貼る(工業用既製服)
- ラペル・上襟・見返しに薄手〜中厚の芯を使用。
- ラペル端には薄い芯、胸側はやや強めの芯を選び分ける。
毛芯+パッドステッチ(フルキャンバス仕様)
- テーラー仕立てでは毛芯を据え、手縫いのパッドステッチでロールを形成。
- 襟の返りが長く綺麗に続く、高級仕様。
どちらの方法を採用しても、芯による補強とロールの方向づけが最重要。
下襟(フェルト)の縮め加工
スチームアイロンで軽く縮ませ、上襟より2〜3mm小さく作る。
この“サイズ差”が襟を美しく立ち上げる最大の秘密。
上襟と下襟の縫い合わせ
ここからようやくミシン工程に入る。
中表に合わせ、端を縫う
- 上襟と下襟をぴったりと合わせる。
- 縫い目幅は一般的に7〜8mm。
- 上襟はタテ地だがわずかに伸縮があるため、待ち針は多めに。
コーナー(カド)の処理
- ゴージライン周辺の角は縫いすぎ注意。
- カーブ部分は細かい切り込み(ノッチ)を入れる。
縫い代の処理(ここが正確性ポイント)
よく誤解されるが、テーラリングでは縫い代をすべて“割る”ことは少ない。
- 下襟側の縫い代を細くカットして“段差(グレーディング)”をつける
- 実質的に下襟側へ縫い代を寄せる(倒す)形で厚みを抑える
この処理が甘いと、襟の内側がゴロついてしまう。
裏返して形を整える
角がきれいに出ているか確認し、軽くスチームを当てて整形。
襟(カラー)と身頃の接合
ここが最も精度が求められる工程。
下襟を身頃のネックラインに縫い付ける
肩線 → 後ろ襟ぐり → 前襟ぐりの順で丁寧に縫う。
- 下襟が上襟より小さく作られているため
「首に吸い付くようなフィット感」が生まれる。
見返しを身頃に縫い合わせる
- ラペル端〜前中心〜襟付け途中まで一気に縫う。
- 見返しとラペルのラインがずれるとロールが崩れるので要注意。
ゴージラインの成形
上襟とラペルが交わる部分。
ここが綺麗だとジャケットの格が上がる。
- 角をつぶさないよう縫い代を慎重に処理
- 補強のため返し縫いを必ず入れる
襟のクセ取り(立体形成)──プロとアマを分ける工程
スチームアイロンで「曲げたいところを曲げ、縮めるべきところを縮める」作業。
これを丁寧にやるほど襟が立体的に返る。
上襟
- 外側は軽く“伸ばす”
- 内側は少し“縮める”
→ 上襟が自然なカーブを描き、首に添う
ラペル
- ロールラインでスッと折れるように、ラインに沿って癖付け
- 見返し側と表地のテンション差を調整する
ロールライン(返り)の形成
襟の“高級感”を決める核心工程。
見返し側の縫い代を短めにする(グレーディング)
表地側より見返し側を短くしておくことで、ラペルが表側へ自然にロールする。
上襟側をわずかに外へ逃がす
上襟に軽く余裕をもたせることで、ロールが綺麗に流れる。
ハンガーにかけて冷まし、形を固定
アイロンは押し付けず「浮かせて蒸気 → 冷まして固定」が鉄則。
最終仕上げ
手まつりで縫い代を安定させる
ラペル裏や見返しが浮かないよう、軽く手縫いで固定。
コバのラインを丁寧に仕上げ
襟端のライン(コバ)を軽い蒸気と指の整形でビシッと出す。
全体をスチームで整えて最終チェック
- ロールの連続性
- ゴージラインのシャープさ
- 首へのフィット
すべてが綺麗に決まれば、上質ジャケットの襟が完成する。
まとめ:襟は“縫う技術”より“整える技術”が重要
ジャケットの襟縫製は、ミシン作業だけでは完成しません。
- 芯の選び方
- 縫い代処理
- 下襟の縮め
- ロールラインのクセ取り
- アイロンワークの精度
これらが合わさることで、襟は初めて美しく返ります。
経験者ほど「縫う時間より整える時間のほうが長い」と語るほど、襟は“仕上げの技術”が命です。
以上、ジャケットの襟の縫い方についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
