ジャケット(スーツジャケット・テーラードジャケット)は、芯地や肩パッド、ラペルのロールなど、複雑な立体構造で成り立つ衣服です。
そのため、シャツのように平面的にアイロンをかけると テカリ・型崩れ・ロールつぶれ・生地の硬化 が発生しやすく、むしろ状態を悪化させることさえあります。
本ガイドでは、家庭用アイロンでも クリーニング店に近い仕上がりを実現するための正しい手順 を、構造理解から部位ごとの技法まで詳しく解説します。
ジャケットアイロンの基本原則
ジャケットにアイロンをかける際は、以下の3つを軸に考えます。
温度設定は必ず洗濯表示に従う
ウール・ウール混の多くは「中温(140〜160℃)」で問題ありませんが、裏地や接着芯がポリエステルの場合は中温でもデリケートな場合があるため、
まずは必ずケアラベルの温度記号を確認しましょう。
アイロンを“滑らせない”ではなく“こすらない”
強く押し付けて動かすとテカリの原因になるため、正しくは:
- アイロンは 押して離す(プレス&リフト) が基本
- 動かす場合も 軽いタッチで短いストローク にとどめる
完全に動かしてはいけないわけではなく、「摩擦で生地をつぶさない」のが重要です。
スチームで繊維をゆるめ、形を整えるのが目的
家庭では“シワを伸ばす”より、“立体を崩さず整える”という意識の方が美しく仕上がります。
用意しておくと仕上がりが変わる道具
必須
- スチームアイロン
- アイロン台(平面型でも可)
- 綿の当て布(白がおすすめ)
あると仕上がりがプロ級に
- 馬毛ブラシ(ほこり落とし&起毛)
- 霧吹き(強いシワだけ部分的に湿らせる)
- 袖用アイロン台(スーツ専用の丸い補助台)
- 厚みのあるハンガー(肩の形を守る)
アイロン前の下準備
ブラッシング
表面のホコリを落とし、繊維を整えてから作業すると仕上がりが均一になります。
軽くスチームを当てて“大枠の形”を戻す
強いシワでなければこれだけで整う場合もあります。
ここで繊維をいったんゆるめておくことで、後のアイロンがしやすくなります。
部位ごとの正しいアイロン手順
ジャケットの基本は 上から下へ。
上部に当てたスチームの湿気が自然に下へ落ちるため、作業効率と仕上がりが向上します。
STEP 1:襟(カラー)・ラペル
ジャケットの中で最も構造が繊細な部分。
手順
- ラペルを平らに開き、当て布を敷く
- 軽くスチームを吹きかけ繊維をゆるめる
- アイロンを当て布の上に 数秒だけ静かに置く
- ラペルの“返り線(ロール)”は潰さず、浮かしスチーム主体で整える
注意点
- ラペルは立体形状が命
- 強いプレスはロールを失い、貧相な見た目になってしまう
STEP 2:肩(ショルダー)
肩パッドや毛芯の立体構造を守りながら整える必要があります。
やり方
- 肩をアイロン台の丸い端にフィットさせる
- 浮かしスチームで軽くほぐす
- アイロンを そっと置いて軽く押すだけ(動かす場合は極小ストローク)
注意点
- 「平らな台で肩をつぶすようにプレス」さえ避ければOK
- 肩の丸みを維持することが最優先
STEP 3:袖(スリーブ)
袖は形が細く、線が出やすいパーツ。
スーツの袖には 本来折り目をつけない のが基本です。
手順
- 袖用アイロン台 → そのまま丸みをキープして軽いプレス
- ない場合 → 当て布+スチームで“軽く押さえるだけ”
注意点
- 二重線が出やすいので強いプレスはNG
- 肘のシワはスチームの“蒸気ほぐし”だけで十分なことも多い
STEP 4:前身頃(フロント)
ポケットや芯地など情報量が多い部分。
手順
- 当て布を敷いてスチーム
- 中央から外側へ向けて 軽くプレス
- ポケットは強く押さず、スチームを当てて手で形を整える程度に
注意点
- ボタンに熱を直接当てない(割れ・変形を防ぐ)
- ラペルの形を崩さないよう、上方向から順に作業。
STEP 5:後身頃(バック)
背中は比較的平面に近く、アイロンしやすい部分。
手順
- スチームをかける
- 中央 → 外側へ向けて軽くプレス
- サイド部分は引っ張りすぎると伸びるので注意
アイロン後の“休ませ工程”が仕上がりを決める
蒸気をたっぷり含んだ直後のジャケットは柔らかく、形が不安定です。
- 厚みのあるハンガーにかけて 10〜20分 休ませる
- 湿気と熱が抜けることで形がしっかり定着し、仕上がりが長持ちします
これはクリーニング店でも行われる重要な工程です。
よくある失敗と回避方法
テカリが出た
原因:高温・強い摩擦・当て布なし
対策
- 温度を下げる
- 当て布を必ず使用
- 摩擦(こすり)動作を禁止
※ すでにテカった場合は自宅で完全修復は難しいため、専門店推奨。
ラペルのロールが潰れた
- ラペルに強くプレスしたのが原因
対策:浮かしスチームでゆるめ、手でロールを再成形して冷ます
シワが取れない
- 霧吹きで繊維を軽く湿らせてからプレス
- 湿りすぎたら十分に乾かす
家庭でプロ並みに仕上げるためのコツ
スチーム → 手で冷まし固定
繊維は冷める瞬間に形が決まるため、スチーム後に 手のひらで軽く押さえて固定 すると、美しいラインが出る。
生地に軽いテンションをかけてプレス
ほんの少しだけ張りを持たせることで、シワの伸びが自然で滑らかに。
立体を壊さないことを最優先に
特に肩・ラペルは “構造を守る” 意識が重要。
以上、ジャケットのアイロンのかけ方についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
