ネクタイの結び目のすぐ下にできる、上品なくぼみ。それが「ディンプル(dimple)」です。
英語で「えくぼ」を意味するこの言葉の通り、ネクタイに立体感と陰影を生み出す重要な要素です。
わずか数センチの凹みですが、これがあるかないかで、スーツスタイルの印象は大きく変わります。
ここでは、ディンプルの意味、作り方、注意点、ネクタイ選びとの関係まで、プロの目線で詳しく解説します。
ディンプルが与える印象
ディンプルは単なる「しわ」ではなく、計算された陰影美を演出するものです。
結び目の下に自然な谷が入ることで、光が柔らかく反射し、以下のような効果を生み出します。
- 立体感とエレガンスを強調
ネクタイに陰影が生まれ、素材の艶や織りが際立ちます。 - Vゾーンが引き締まる
顔まわりをすっきり見せ、清潔感と信頼感を演出。 - 上級者の印象に
手間をかけて整えていることが伝わり、「着こなしに慣れた人」という印象を与えます。
つまり、ディンプルは“上質さを語る沈黙のサイン”ともいえる存在です。
美しいディンプルの作り方
最も基本的な「プレーンノット(四つ手結び)」を例に、正しい手順を解説します。
通常通りに結び目を作る
太いほう(大剣)を細いほう(小剣)に巻きつけ、首元の輪に通すところまで進めます。
引き出す直前に、指で中央を軽く押し込む
大剣の結び目直下を、親指と人差し指で軽く押さえて「谷」を作ります。
このとき、中央にひとつの明確なくぼみを作る意識を持ちましょう。
くぼみをキープしたまま、結び目を上へ引き上げる
くぼみを保ちながら、ゆっくりと結び目を上に締めて固定します。
勢いよく引くとディンプルが潰れてしまうため、ゆっくり・丁寧に。
形を整える
結び目の中央に一本の谷が入り、その両側に軽いプリーツが寄るように整えると自然で上品です。
ディンプル作りのコツと注意点
中央に一本 ― 非対称ではなく“バランス重視”
結び目の外形はやや非対称でも、ディンプル自体は中央に一本の谷を作るのが基本です。
左右の軽いシワはあくまで副次的なものと考えましょう。
強く締めすぎない
締め込みすぎるとシワが折れ目になり、陰影が不自然になります。
最後の引き上げは軽く、指で形を微調整する程度に。
素材と芯地の相性を見極める
- シルク(ツイル・サテン・グレナディン):最も美しいディンプルが出やすい。
- ウールタイ・コットンタイ:ハリがあり浅めのくぼみが自然。
- ニットタイ:凹みは作らず、あえてフラットに落とすスタイルが主流。
- 厚手の生地でも、芯に弾力があれば立体感を出せる。
結び方との相性
- プレーンノット(四つ手):最も作りやすい。
- ハーフウィンザー:適度な結び目の大きさで、上品な仕上がり。
- フルウィンザー:やや大きく詰まり気味だが、丁寧に形を整えれば問題なし。
- プラットノット:均整の取れた結び目に自然なディンプルを作りやすい。
ディンプルを美しく保つメンテナンス
ほどくときは丁寧に
引っ張ってほどくと芯地が歪み、次回きれいな谷ができにくくなります。
必ずゆっくりと解きましょう。
吊るして休ませる
使用後は軽く伸ばしてハンガーにかけ、一晩休ませます。
これで生地のテンションが戻り、翌日もきれいな形が作りやすくなります。
スチームケア
シルクタイには直接蒸気を当てず、15〜20cm離して短時間。
あて布を使って軽くスチームを当てると、自然なハリと光沢が戻ります。
ディンプルの有無による印象の違い
| 状態 | 印象 | 適したシーン |
|---|---|---|
| ディンプルあり | 立体的・エレガント・上品 | ビジネス・フォーマル全般 |
| ディンプルなし | シンプル・カジュアル | クールビズ・カジュアルスタイル |
特に日本のビジネスシーンでは、「中央に一本の明確なディンプル」が最も清潔で好印象とされています。
上級者向けアレンジ:ダブルディンプル
結び目の下に“二段の谷”を作る「ダブルディンプル」というアレンジもあります。
フォトシュートや式典では映えますが、やりすぎると作為的に見えるため、普段のビジネスではシングル・ディンプルが無難です。
まとめ:細部のこだわりが品格を決める
ディンプルは、スーツスタイルを格上げする最小にして最強のテクニックです。
完璧な結び目よりも、「わずかな陰影の美しさ」こそが、成熟した装いの証。
丁寧な指先のひと手間が、あなたの第一印象を確実に変えてくれます。
以上、ネクタイの凹みのディンプルについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
