ジャケットのシルエットは、ただ外側から見ているだけでは分からない精巧な仕掛けによって支えられています。
その代表が「ダーツ」と呼ばれるパターン技法です。
ダーツとは、平面的な布に立体的な曲線を作るために、布をつまんで縫い込む処理のこと。
胸のふくらみ、ウエストの細さ、背中の丸みといった人体の立体を再現するために、ジャケットでは必ず何らかの形でこの“ゆとり調整”が行われています。
ダーツはその位置や量によって、ジャケットの印象を大きく変えるため、デザイン要素というより「構造そのものを成り立たせる重要部品」と言っても過言ではありません。
ダーツの主な種類と役割(メンズ/レディース共通で理解できる版)
フロントダーツ(前身頃ダーツ)
前身頃に垂直方向で入る代表的なダーツです。
ウエストのくびれを作り、胸元の余りを美しく処理する役割があります。
- シルエットを細く見せる
- 前身頃のラインをクリーンに整える
- 胸部のふくらみに沿って自然な立体を作る
メンズでもレディースでも、多くの“体に沿わせるジャケット”は、見た目にダーツ線が見えていなくても、パターン上はこの機能を持つ処理が組み込まれています。
サイドダーツ(レディースで多い)
脇線付近から胸部(バストポイント)へ向かう斜めのダーツです。
特にレディースジャケットでは、バストの立体処理に不可欠な要素。
- バストの丸みを自然に再現
- フロントだけでは処理しきれないゆとりを、脇側へ分散
- 上半身の曲線をなめらかに見せる
「胸に余りが出ない」「シワを防ぐ」といった実用的な効果があります。
バックダーツ(背面ダーツ)
背中側に縦方向で入るダーツで、ウエストラインを締め、背面のゆとりをコントロールします。
- もたつきのない後ろ姿
- スマートでシャープなシルエット
- 背中の丸みを自然に整える
特にスリム・フィット系のジャケットで重要です。
サイドボディ(サイドパネル)
前回の説明では「サイドダーツ」と混ざりやすい領域なので、ここで明確に分けます。
サイドボディとは“ダーツの代わりに、前身頃と後身頃の間にパネルを1枚挟んだ構造”のこと。
- ヨーロッパのスーツブランドに多い
- 表にダーツ線を出さずにウエストシェイプを作れる
- より滑らかで立体的なシルエットを実現
これは“ダーツ”ではなく“切替線”による立体構築ですが、目的はダーツと同じで「余りを消して立体にする」ことです。
ダーツあり/なしで何が変わる?
ダーツあり(または同等の処理あり)
- 体に沿うフィット感
- 上品・ドレッシーな印象
- 立体感が際立つ
- しなやかな曲線を作りやすい
実は“見た目に線が無い”だけで、高品質ジャケットはパターン上どこかに必ずダーツ処理が存在します。
ダーツなし(ボックスシルエット)
- ゆったりしたカジュアル向け
- ストレートなライン
- オーバーサイズのトレンドに多い
- リラックス感が強い
こちらは “平面的な構造を活かしたデザイン” なので、ダーツを使ったシャープなラインとは方向性が異なります。
プリンセスラインとの違い
ダーツは「布をつまむ」処理ですが、プリンセスラインは切り替え線そのものを立体ラインとして活用するハイレベルな方法です。
- バストの丸みに精密にフィット
- 長い切替線が体のラインを強調
- レディースのジャケットやワンピースに多い
- 高級感・立体感を出しやすい
ダーツより調整幅が大きく、視覚的にもより洗練されたシルエットを作りやすいのが特徴です。
ダーツ量(深さ)・角度・位置でどれだけ変わる?
ダーツはただ「入っている/いない」だけでなく、量や方向によって服の印象が一変します。
深くする → 絞りが増え、細身のシルエットに
ウエストのメリハリが強くなる。
浅くする → ゆとりが増え、カジュアル寄りに
柔らかく直線的なラインに近づく。
角度を変える → 胸・背中の立体感が変化
体型に合わせた微調整がここで決まる。
熟練のパタンナーは、1~2mm単位の修正でシルエットを調整します。
それほど重要な要素なのです。
まとめ
ダーツは“ジャケットの立体構造を支える要”である**
- ダーツは布の余りをつまんで立体を作る技法
- 前身頃・脇・後ろ身頃など、場所によって役割が異なる
- サイドボディなど、ダーツの代替となる切替構造も存在
- ダーツの有無は、シルエットの性格を大きく左右する
- フィット感・美しさ・技術力はダーツの扱いで決まる
ジャケットを選ぶとき、試着で「どこが自分の体に合っているのか」を見ると、ダーツの働きが自然と理解できるようになります。
以上、ジャケットのダーツについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
