ジャケットの“裾上げ”という言葉は日常的に使われますが、仕立ての現場では一般的に「着丈詰め」と呼ばれます。
パンツの裾上げと異なり、ジャケットは芯地・裏地・見返し・ベントなど複数の構造が絡み合うため、見た目以上に高度な補正作業が必要になります。
ここでは、着丈詰めで何ができるのか、どこに注意すべきなのか、依頼前に知っておくべきポイントを、実際の仕立て工程に触れながら詳しく解説します。
ジャケットの裾上げでできること
ジャケットには通常、裾裏に「見返し」と呼ばれる折り返し構造があり、一般的には2〜4cm前後の縫い代が確保されています。
この範囲内であれば、着丈を自然に短く調整しやすく、以下のような補正が可能です。
- 1〜3cm程度の着丈短縮(最も自然に仕上がる範囲)
- 元のシルエットを崩さず、現代的なバランスへ微調整
- 裏地や芯地も含めた正しい再縫製
- ベント(センターベント・サイドベント)部分の自然な再構成
特に欧米ブランドのジャケットはやや長めのデザインが多く、体型によっては、2cm程度短くするだけで全体の印象が引き締まるケースもあります。
ジャケットの裾上げで難しい・推奨されないケース
着丈を短くできるとはいえ、構造上どうしても避けたい調整範囲も存在します。
- 4cm以上の大幅な短縮
- ポケット位置が不自然に下寄りになる補正
- ベントの長さが変わり、開き方に違和感が出る補正
- ボタン位置とのバランスが破綻するほどの短縮
- デザイン性の高いブランドジャケットの大幅な変更
ジャケットは、肩幅・ウエストライン・ポケット・ボタン位置・ベント長など多くの要素が黄金バランスで設計されています。
そのため、限界値を超えた補正は、見た目に「何かおかしい」と感じさせてしまう原因になります。
実際の裾上げ工程 ― 高度な技術が必要な理由
パンツの裾上げとは異なり、ジャケットの着丈詰めは複数の層をほどき、立体構造を再構成する必要があります。
主な工程は以下の通りです。
- 裾部分の解き作業
表地・裏地・芯地・見返しを丁寧に分解。 - 新しい着丈の設定と調整
肩の傾斜、ボタン位置、袖丈とのバランスまで総合的に考慮。 - 芯地・見返しの再カット
ジャケットの骨格となる芯地を適切な形に調整。 - アイロンでの立体成形
ジャケット特有の丸みや前振りを再現しながら形を作る工程。 - 表地と裏地の再縫製
元のステッチラインが自然に見えるよう繊細な縫製を行う。 - ベントの再構築
開き方・長さが不自然にならないよう細かく調整。
これらを踏まえると、ジャケットの裾上げが「職人の力量が如実に現れる補正」と言われる理由が理解しやすくなります。
費用相場の目安
料金は構造や店舗の技術レベルによってかなり幅がありますが、一般的な目安は次の通りです。
| 補正内容 | 料金目安 | 難易度 |
|---|---|---|
| 着丈詰め(ノーベント) | 約5,000〜10,000円 | 中 |
| 着丈詰め(シングルベント) | 約6,000〜12,000円 | 中〜高 |
| 着丈詰め(サイドベント) | 約8,000〜15,000円 | 高 |
| 高級テーラー系 | 15,000〜20,000円以上 | 非常に高 |
“安い=技術が低い”とは限らないものの、ジャケットの補正は難度が高いため、着丈補正の実績が豊富な店舗を選ぶことが最重要ポイントです。
裾上げを検討する際に必ず確認すべきポイント
ポケットとの距離
短くしすぎると、腰ポケットが裾に近づき、バランスが崩れます。
ベントの長さと開き方
着丈を詰めることでベントの長さが相対的に短くなり、後ろ姿が不自然になることがあります。
ボタン位置
第一ボタンの位置が相対的に上に見えるようになり、全体の重心がずれることも。
袖丈とのバランス
着丈だけ短くすると、袖が長く見える場合があります。
袖丈とのセット調整も視野に入れると、仕上がりが整います。
裾上げに向いているケースと不向きなケース
向いているケース
- 着丈がやや長く見えるジャケット
- 現代的なショート寄りのシルエットに整えたい場合
- 小柄で既製品の着丈が合いにくい人
- 見た目の重心バランスを少しだけ上げたい場合
不向きなケース
- デザイン性の高いブランドジャケット
- 大幅に短くしたい場合
- ベント位置が極端に短くなるジャケット
- 元々「ショート丈前提」で作られたデザイン
まとめ:ジャケットの裾上げは“微調整の職人技”
ジャケットの裾上げ(着丈詰め)は、見た目のわずかな変化が全体の印象に強く影響する繊細な補正です。
- 一般的に安全なのは1〜3cm前後の微調整
- それ以上の補正はデザインの崩れが起きやすい
- 依頼先選びが仕上がりを左右する最重要ポイント
- ポケット位置・ベント・ボタン位置との関係は必ずチェック
こうした要点を押さえつつ補正すれば、ジャケット本来の美しいラインを生かしながら、着る人にしっくり馴染む理想的なシルエットに近づけることができます。
以上、ジャケットの裾上げについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
